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2012年3月28日 (水)

冬眠:人もできる? 「省エネ」で抵抗力向上

スウェーデンで2月、雪に埋もれた車中に約2カ月間いたという中年男性が無事救出された。日本でも06年、六甲山中で遭難した男性が24日後に生還している。ともに診察した医師は「体温が下がり、冬眠のような状態だったのではないか」とみた。果たして人間もクマのように冬眠できる?【田村佳子】

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冬眠中のシマリス。外界とほぼ同じ温度まで、体温を下げている=近藤宣昭さん提供

 ロイター電によると、スウェーデンの男性(45)は林道上の車の後部座席で、寝袋に入っているところを発見された。男性は12月から閉じ込められていたが、食料はなく、雪を食べていたという。

 「報道が事実なら、冬眠状態だったと考えれば説明がつく」と話すのは、玉川大学術研究所特別研究員の近藤宣昭さん(61)。日本の冬眠研究の第一人者で、90年にシマリスから「冬眠特異的タンパク質」(HP)というホルモンを発見した。HPは冬季に脳に蓄積し、その間は心筋が緩やかに収縮できるようになる。近藤さんは「人のタンパク質の一部にもHPに似たものが見つかっており、多く持つ人なら凍死を免れても不思議はない」とし、「冬眠動物が長生きなように、長寿の人は既に使っている可能性がある」と指摘する。

 一方、兵庫県の六甲山では06年10月、当時35歳の公務員が下山中に遭難し、24日後に保護された。当人は「遭難翌日から記憶がない」と語ったが、発見時の体温は22度。通常なら不整脈が起きたり、血圧が保てないレベルだ。男性を診察した南丈也医師=当時は神戸市立中央市民病院勤務=は「呼吸は1分間に5~6回、心拍は通常の3分の1以下の20回程度だった。22度で生きていたのもすごいが、長期間だったのが驚き。医学的常識では考えられない耐性があった」と振り返る。遭難時に骨折した骨盤も自然治癒しており、後遺症もなかったという。

 冬眠といえば作家の想像力を刺激するのか、H・G・ウェルズなどのSF作品に人工的な冬眠が多く描かれてきた。映画「2001年宇宙の旅」では、宇宙船の移動中、乗組員は眠ることで老化を食い止める。ただし現実には「冬眠中の動物は血流や脳波が乏しく、研究データを取りにくいというジレンマがある」(近藤さん)ため、冬眠のメカニズム解明は容易ではない。

 だが、人への冬眠の応用は、特に医療分野で期待が高い。現在も脳の低温療法があるが、さらに低温下で臓器を正常に保てれば、脳・心臓手術や臓器移植に生かせるためだ。関西医科大付属滝井病院(大阪府守口市)の大谷肇教授は「脳の温度を今の限界よりもっと下げられれば、脳障害を防げる。心臓も今は5分ほどしか血流を止められないが、4度まで下げて代謝を抑えれば1~2時間止めておける」と話す。

 冬眠中の動物は限りなく「死」に近い状態までエネルギー消費を切り詰め、残りを組織や細胞の修復に集中させる。実際、冬眠中の動物は病気や老化への抵抗力が高く、発がん物質や致死量の細菌を投与しても健康に影響がなかったとの報告もある。岐阜大応用生物科学部の志水泰武教授(獣医生理学)は冬眠中も動物の筋肉や骨が衰えないことを挙げ、「人とは違う不思議な現象。骨粗しょう症や加齢による体の衰えの予防など、高齢社会の医療にヒントになるかもしれない」と言う。

 「あらしのよるに」など動物を描いた作品で知られる絵本作家、あべ弘士さん=北海道旭川市在住=は「冬眠は代謝を極力抑える“省エネ的”な生活で、できる人間が出てくればすばらしい」とし、「僕も冬は冬眠に入ると宣言しています。動物のように活動を停止できなくても、社会活動を少なくすると自分を見つめ、ものを考える時間ができる。冬眠明けには『がんばるぞ』と春を感じられるんです」と“冬眠動物的生き方”を勧める。

毎日新聞 2012年3月28日 13時04分(最終更新 3月28日 13時26分)

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