社説:厚生年金基金改革 決められる政治の出番
毎日新聞 2012年07月16日 02時32分
1000億円以上もの厚生年金基金を消失させたAIJ投資顧問事件で公的年金の存続を心配する人がいるが、それは違う。厚生年金基金とは、基礎年金(1階)と厚生年金(2階)の上に企業が独自に設けた3階部分を指す。1、2階部分の公的年金には本来影響がなく、被害を受けた企業が自己責任で処理すべきものなのである。
問題は、2階部分である厚生年金の一部を国から預かって代行運用しており、そこに穴が開いているため基金を解散したくてもできないことだ。もともと不況業種の中小企業が寄り集まった基金が多く、無理に返済を迫れば企業本体が倒産しかねない。共同で運用している他企業に連帯責任を求めれば連鎖倒産の恐れが出てくる。危ない高利回りの甘言にだまされた基金がますます泥沼に引きずり込まれたのがAIJ事件である。現在578の基金の約4割が、必要な積立金が不足する「代行割れ」の状態で、不足分の総額は7000億円を超える。
妙案があるわけではない。厚生労働省の有識者会議は、危機的な基金を解散しやすくするため、国への返還金の減額や加入企業の連帯返済の廃止などを打ち出した。しかし、穴が開いた部分をどうするかといえば、公的年金の積立金で埋めるというのだ。まったく関係のない一般の厚生年金加入者はこれを受け入れるだろうか。
その一方で、予定利率(5.5%)を引き下げたり、OBの年金受給額を減額したりする改革案は検討の継続か両論併記にとどまり、明確な方針は示せなかった。厚生年金基金には退職金の一部という面もあり、容易に減額を認めなかった判例があることも影響しているのだろう。しかし、高い予定利率の3階建て部分を受給しているOBが痛みを分かち合わなければ、とばっちりを受ける厚生年金加入者の納得は得られないのではないか。
現役世代が年金受給世代よりはるかに多かったころは年金の運用実績も良く積立金は増えていく一方だった。今は積立金を少しずつ取り崩しながら超高齢化を乗り切っていかねばならない。公的年金の持続可能性を損なわないためには、「代行割れ」の基金に早く見切りをつけることだ。誰かが痛みを引き受けないといけないならば、「決められる政治」の出番ではないか。
現役が減りOBが増えているのはどの基金も同じで、経済状況がよほど改善しない限り5.5%の予定利率で支給し続ければ財政が苦しくなるのはわかりきっている。厚生年金基金制度そのものの廃止も含めて抜本的な改革に着手すべきだ。
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