社説:保護者制度の廃止 新しい精神医療を開け
毎日新聞 2012年07月14日 02時31分
多くの人が長年疑問に思い、必死に変えようとしてきた人もいるのに変わらなかったことが、動き出している。精神科医療における保護者制度である。厚生労働省の検討会は精神保健福祉法の「保護者の義務」や医療保護入院の廃止を打ち出した。保護者に過度の責任を負わせ、患者自身の人権侵害にもつながる制度の廃止はぜひとも実現すべきだ。
精神科への入院は自らの意思による任意入院、自傷や他害の恐れがあるときに都道府県知事の判断による措置入院、保護者の同意で行う医療保護入院がある。患者が病気の自覚がない場合にも治療に結びつけるため保護者には「治療を受けさせる」「医師の指示に従う」「患者の引き取り」などの義務が法で定められている。統合失調症などは親の育て方と関係なく誰にでも起こり得る疾患だが、どんなに老いても親は重い責任を負わされる。患者にとっては親の同意だけで強制的に入院させられるわけで、家族間のあつれきや長期入院の原因ともされてきた。
医療保護入院などは1900(明治33)年に制定された精神病者監護法を起源とする。精神疾患への偏見や迫害から家族が自宅に座敷ろうを作って患者を隔離してきたことを改善するためと言われるが、親に責任を負わせる実態は続いてきた。
廃止後は、精神保健指定医の判断で入院治療を可能とする方向で検討されている。ただ、入院すると長期に及びがちなのがわが国の精神医療の課題であり、何重にもチェックする必要がある。入院期間を原則1年とする、医療機関が患者を入院させる際に作成する「入院診療計画」に入院期間を明示する、精神医療審査会による定期的な審査を厳しくする、などの案が検討されている。
現在は精神科への新規入院患者の6割が3カ月未満で退院していることを考えれば、原則1年では長すぎるくらいだ。患者の早期退院には地域の福祉や生活基盤の拡充、病院内で医師以外のスタッフによる支援、患者の権利を代弁できる第三者によるチェックなども必要だ。
わが国の医療や福祉は親の責任や家族内の支え合いが非常に重く見られてきた。弱まってきた家族機能を社会全体で支えようという政策が民主党政権の特徴でもあり、そうした流れの中で保護者制度の廃止が浮上したともいえる。今後のわが国の福祉のかたちを占う上でも注目に値する制度改革なのである。
子ども手当や生活保護をめぐる議論を見ると家族の支え合いを重視する人々からの異論も予想されるが、100年以上も化石のように親や患者の重しとなってきた制度の廃止には与野党で取り組んでもらいたい。
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