新田次郎:未完小説を次男が完成 「ようやく敵を討った」
毎日新聞 2012年11月17日 15時00分(最終更新 11月17日 15時51分)
山岳、歴史小説の大家、新田次郎(1912〜80年)の未完の作品を、次男で数学者・作家の藤原正彦さん(69)が完成させた。29日に父子の合作として、文芸春秋から刊行される。引き継いだ取材を三十余年がかりで結実させた藤原さんは「ようやくおやじの敵を討った」と喜んでいる。【栗原俊雄】
新田は毎日新聞朝刊で小説「孤愁(こしゅう)<サウダーデ>」を連載中の80年2月15日、心筋梗塞(こうそく)のため自宅で倒れ、藤原さんの腕の中で息を引き取った。すでに多数のベストセラーがあったが、「孤愁」については「20年も構想を練っていて、『代表作にする』と言っていた」という。
藤原さんは「悲しみよりも、父を奪った自然の摂理への怒りが湧き」、自分が書き継ぐことを決めた。本作の主人公は、実在したポルトガル人外交官で随筆家のヴェンセスラオ・デ・モラエス(1854〜1929年)。日本の文化を欧州に広く紹介した。小説は400字詰め原稿用紙で850枚、日露戦争の勃発までで未完となっていた。
本業である数学の研究の合間を縫って、藤原さんはマカオや神戸、徳島など小説の舞台を訪ね、取材を続けた。新田の残した資料には全て目を通し、新たに収集もした。ポルトガルでは、残された取材ノートを頼りに同じ場所、同じ人物に取材。小説の構想は、担当編集者に聞いた。
本格的に執筆にかかったのは、今年の初め。新田の生誕100年であり、自身が父の享年を過ぎたことも考えたという。
「国家の品格」などのベストセラーで知られる藤原さんだが、小説は初めて。改めて父の遺作を精読し、手法を学んだ。日本の文化と自然を愛し、日本人の妻を迎え、最後は徳島で妻の墓を守ったモラエスの生涯を、原稿用紙550枚に情緒豊かに描ききった。「父の名、作品を汚すわけにはいかない。プレッシャーはありました」と言うが、書き終えて「大きな考えは変わらなかったと思います。やはり親子ですね」と話している。
http://mainichi.jp/select/news/20121117k0000e040196000c.html
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